ミロ、達者にしているだろうか。お前にこうして手紙を書くのは、初めての事だったと思う。改めて筆をとると、何から書き出して良いものかと困惑している。
そういえば、日本に行ったのだそうだな。お前が珍しいこともあるものだ。先日、氷河が嬉しそうに話してくれた。また、私が死んでいる間のことも(それ以外の言い方が思い浮かばなかったのだが、こうして書いてみると実に不思議なものだ)、聞かせてもらった。師として礼を言わせてほしい。氷河は繊細なようで強く、そうかと思えば脆くもあり、いや、このことは、会って話すべきことだったな。そもそも、シベリアに発つ前に言っておくべきことだった。肝心なことを省くのは私の悪い癖だと、昔から、お前にもよく言われていたな。そのせいで、随分と気苦労をかけたことと思う。だが、お前には、言わずとも伝わっているような気がしてしまう。これは私の甘えなのだろうか。
そうだ、今回は、用件を伝えようと思っていたのだ。
来月には、一度聖域に戻る。シベリアに渡り、もう二か月以上経とうとしている。然したる成果が上げられたとは言い難いが、思うところもあった。私同様、老師やシャカも、近いうちに聖域に戻るのではないだろうか。私にこの任が与えられたのは、ひとえに女神のご厚意によるものだ。公私混同をするつもりはもとよりないが、女神のお心遣いには涙が出る思いだ。
多くは語れぬが、海闘士として氷河と戦った、私のもう一人の弟子アイザックについては、お前も聞き及んでいることと思う。消息は未だつかめない。死んだと言い切れないのを、私の未練だとばかり言ってくれるな。我ら聖闘士が復活を果たした今、戦いで命を落としたはずの冥闘士、海闘士らもまた、蘇る可能性は皆無ではない。それが、聖域、ひいては地上にどのような影響をもたらすことになるのか。神々の気まぐれがいかなる結果を用意したとしても、良き方向に進むよう信じたいところではあるが、この平和が束の間のものとなりかねない、僅かでも懸念となり得るものは、早いうちに摘み取っておくべきだと考える。全ては女神のお心次第、だが、人として、一人の師として、望まずにはいられないのだ。私たちが戦い果てた末に、新たな生命を得て歩むことを許されたならば、さらに年若い彼らにも、再び、一度目とは違う人生があってもいいのではないか、と。
すまない。どうも、書き出すといらぬことまで口数が多くなってしまうような気がする。 顔を合わせている時は、口が足らぬと言われたものなのに、おかしなものだ。やはり、私はお前に甘えてしまっている。
まとまりのない文となったことを、許してくれ。これでも慣れないことに、緊張しているようだ。
お前と話したいことが沢山ある。別れていた時の分まで。このような一枚の紙には書ききれないほどに。また会おう。聖域で、かつて共に過ごした時と同じように。
大切な友よ。再び、同じ刻を生きられることを、女神に感謝する。
Je t'embrasse,
Camus
Camus