前編 猫を膝に乗せるまで


「そんなに緊張するな」
「……緊張など、していない」
「顔が固いぞ」
「うるさい」
「……」
「…………」
「………、……」
「…、ん…………」
「…………」
「…ッ…………」
「背中痛いだろう。場所を変えるか?」
「ここでいい」
「しかし、お前、」
「いいと言っている! さっさと続けろ」
「………………やめだ」
「はあ!? ……っ、カノン、どういうつもりだ!」
「誤解するな。日中暑かったからな、そういえば汗ばんでいたのを思い出したんだ。シャワーあっちだな? 借りるぞ」
「待て! そんなこと気にせん。もったいぶらずにさっさとやれ!」
「俺は気にするんだ。一人で残されるのが心細いか?」
「馬鹿言え! そんなわけあるか!!」
「俺が帰って来るまでに覚悟を決めておけ」
「覚悟なんぞいるか。誰が大人しく待つと思う。俺は寝るぞ! おい、カノン、聞かないか!! ……。…………くそっ」


「……。………………!! なんだ!?」
「背後に立つのに気づかんとは、ぼんやりし過ぎだろう。それともよっぽど何か考えごとか?」
「っ、うるさい。って、なにを」
「タオル勝手に借りたぞ。そっちはお前の分だ」
「いらん! 俺は入らんぞ」
「先に行っている。湯が嫌なら頭から水でもかぶって落ち着くんだな」
「必要ない! その気は殺がれた。だいたいそんな、」
「いかにもこれから、っていう雰囲気が嫌なんだろう?」
「!」
「が、初めはともかくな……。いつまでもそういう勢いに任せて、というのは嫌なんだよ」
「……」
「寝室で待っている。その気になったら来い」
「………………」


「ミロ」
「……」
「……、…」
「…………何を笑っている」
「座るにしても流石に遠すぎだろう。何もしないからもう少し近くに寄れ」
「信用ならんな」
「逆か。そんなに離れていては、何もできないからもっとこっちへ来い。それとも俺から行くか?」
「! ……。…………笑うな」
「悪い。つい、な」
「そのにやけた面はやめろ。……おい、近いぞ」
「髪が濡れている。洗ったのか?」
「濡れただけだ」
「生乾きで。きちんと乾かせよ」
「余計なことを。…っ……離れろ」
「ちゃんと来たな」
「俺は逃げるような真似はせん」
「その割には随分長風呂だったな」
「ッ!!」
「暴れるな。悪かった。からかうつもりではなかったんだ。嬉しいんだ。来てくれて」
「ここは俺の部屋だ」
「知っている」
「入るのに誰の指図も受けん」
「ああ、そうだな」
「………………嫌な、わけではない」
「それも分かってる」
「……」
「……明かり消すか?」
「いい。このままで」

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Open 2012.5.28 / Renewal 2015.11.22
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