Chapter0 Reunion


 聖域で十三年ぶりに見た兄の顔は、やはり自分と寸分もたがわず、冥衣を纏っているのが唯一すでに兄は死んだのだと実感させて、痛みが走った。
 双子座の黄金聖衣を纏う意味と、意思。サガがずっと負ってきたものを、束の間だけ担う。俺は双子座の黄金聖闘士として冥界の地を踏みしめる。サガに代わって、サガの果たせなかった想いと共に、冥界を駆ける。そう思うのは俺のエゴだ。だがそれでもいい。サガに返したその時に、役目を終えたと安堵した。

「カノン」
 憂いを帯びた目で、寸分たがわぬ顔で見つめ返してきたのは、まごうことなき兄の姿だった。
「サガ……」
 再び呼ぶことも叶わなかったかもしれない名を口にする。
 随分長い間、押し黙っていた。
 サガは目を伏せ、それから言った。
「カノン、お前が私の代わりに女神を……」
 途中で言葉を切って、やめる。
 交わす言葉は驚くほど少なかった。お互いに分かっていたからだ。それ以上、言葉は何の意味も持たないということを。
 言葉は意味を持たないけれど、共に近くで生きていられる、呼吸を感じられることは、なんと尊いことだろう。そう、俺が感じていることを、お前は知っているか?
 漸く言ったサガの声音は、ひたすらに己を押し殺すように。
「私はしばらくここに留まろうと思う。双児宮はお前に任せる」
 サガの顔は、あの時女神神殿で見たときと同じ。沈鬱な表情、深い自己犠牲をも望まんとする贖罪の色。ああ、お前は囚われているんだな。サガよ。だがその中に、俺への愛憐が含まれていないことを願う。

 生まれる前は一つだった。それなのに、一つの生を終えて、次の生を得た今、なんと遠くに離れてしまったのだろう。

^

拍手
Open 2012.5.28 / Renewal 2015.11.22
ねむたい宇宙 http://sleepycosmos.halfmoon.jp/