カノミロひみつの関係


デス「どのようなもの、ってデキてる、」
ガツン
デス「何すんだよ!」
ムウ「すみません。手が滑りました」
デス「手加減しろっつーの。お前だって、言ってたじゃねえかよ」
ムウ「時と場所と面子を考えなさい、というのです」
サガ「どのような関係とは、どういうことだ?」
デス「げ、サガ、いたのか」
ムウ「(分かりますか。仮にデキていたとして、当事者の兄たるサガがそれを知ったとしたらどうです? 泣いて喜ぶのか、怒り狂って黒化するのか。どちらに転ぶか分からない、この難しい状況を。私たちに課せられたのは、重要ミッションですよ。うまく回避せねば、再び聖域に暗雲が立ち込めるやもしれません)」
デス「(弟が異次元に飛ばされるだけならまだしも、意外と情の深い蠍に仇とばかりに穴開けられんのもかなわねーしな。それにしても、どうして黄金の皆様がこの選択なんだよ)」
ムウ「(動かしやすいんでしょうね。アイオリアやアルデバランの場合、贖罪SN美談に終始して、会話は2行で終わってしまいますから)」
サガ「どうした、二人とも。私も、最近、カノンとミロについては気になることがあるのだ。ムウ、デスマスクよ。お前たちの意見も、聞かせてほしいと思っていたところだ」
デス「(まったく、面倒くさい役は全部押しつければいいと思ってるんじゃねえだろうな)」
サガ「最近、カノンが変わったと思わないか」
デス「(ええい、ままよ)どういう風にだ?」
サガ「それがな……」
デス「ごくり」
サガ「風呂が長くなった。ような気がする」
ムウ「意外なところで来ましたね」
デス「拍子抜けするような話だな、おい。別にいいじゃねえか、風呂くらい長くったって」
ムウ「しかし、気がする、とは、どういうことでしょう?」
サガ「知っての通り、私はあまり双児宮に帰らないのだが、時に我が家が懐かしくなったり、用があって立ち寄ることもある。この頃になって、そういう時には、大抵、風呂に湯がはってあることに気づいたのだ。私をねぎらってのことかと、涙を流しそうになったものだが、よくよく考えてみれば、いつ帰るとも知らせずにいるのに、いつもタイミングよく、湯がはってあるというのはおかしな話ではないか」
デス「あんたの行動も読めないしな。カノンが入るために入れたんだろ。問題あるのか?」
サガ「次に私もそう考えた。しかし、私がいる時には、そんな素振りは見せないのだ」
ムウ「入りにくんじゃないですか」
サガ「やはり、そう思うか」
ムウ「まあ、普通は、そう考えるかと」
サガ「カノンは、昔から烏の行水並に入浴が早かったのだ。幼い頃より、風呂の良さを分からせようと、口を酸っぱくして言ったものだ。一度なぞは、24時間風呂から出られないように結界をはって入浴させたのだが、効果はなかった」
デス「それ逆効果だろ」
ムウ「海水が温水なだけましなスニオンの練習ですかね」
サガ「先日双児宮に戻った際に、それとなく、カノンに風呂に入らないのかと聞いてみたら、怪訝な顔をして入るがなんだ、と言ってきたので、様子を見守っていたのだが。そうしたら、こともあろうか、湯をはらずにシャワーだけで済ませてきたのだ! 風呂に入るとは、ゆっくり湯につかることもそれに含むわけで、湯船で温まらずに入浴などとは言語道断、風呂を愚弄する行為に他ならず、」
ムウ「あーー、あなたの風呂談義はいいです。長くなるから。つまり、実際には、ゆっくり湯船につかる様子はない。でも、湯がはってあることは度々ある。そういうことですね?」
サガ「そういうことだ」
デス「あのな、俺にも、たぶん多くの奴らにも、もうオチは読めたと思うんだけどよ」
ムウ「私も何となく分かりましたが。サガ、あなたが見かけた状況で、カノン以外に客人がいませんでしたか」
サガ「!! お前たち、気づいていたのか!?」
デス「(ムウ、やばくないか? この流れは)」
ムウ「(仕方がありません。成り行きに任せましょう)」
サガ「実は、ミロと出くわしたことがあるのだ」
デス「(ああああ)」
ムウ「(お待ちなさい。まだ、話はそうと決まったわけではありません)で、どういう状況だったのですか?」
サガ「不眠不休の修羅場を終えて、なんとか双児宮に辿りついた時には、もう辺りは明るくなり始めていた。そのまま寝室へ直行しようとすると、ふと浴室に明かりがついているのに気づいたのだ。引き寄せられるように扉を開けると、そこには、私を迎えるように温かな湯気が」
デス「覗いたのか!?」
サガ「覗かざりてか」
デス「あんたは、なんてことおおお!!」
サガ「何を動揺している、デスマスク」
デス「俺んちは隣なんだよ! 派手な兄弟喧嘩が勃発すると一番に被害にあうんだよ!」
サガ「失敬な。ここのところ、カノンとは良好な関係を築いているのだぞ」
デス「だったら自分でぶち壊すようなあぶないことすんじゃねえ!」
ムウ「落ち着きなさい、デスマスク。で、ミロが入っていたところを覗いたと?」
サガ「ミロが? いや、美しく湯のはられた水面につい魅入っていたので、後ろの扉が開くまで、気配に気づかなかった」
デス「ああ、未遂ね……」
ムウ「念のためにお伺いしますが、その時、ミロはどんな様子だったのです?」
サガ「いや、さして普段と変わらぬようだったぞ。言われてみれば、多少服が乱れて、髪のはねも多かったか? 私を見て、しばし間があったような気もしたが、あとはいつもの通りだ。私に労いの言葉をかけてくれてな。『サガ、今帰りか? 随分と早いな。いや、遅いというべきか。甚く疲れているようだ。風呂にでも入ってゆっくり休め。俺はこれで失礼するぞ』そして、返事も待たずに颯爽と去って行った。うむ。立派に育ったものだ」
ムウ「(逃げましたね)」
デス「あー、そーいや、ミロが早朝、ダッシュで巨蟹宮を駆け抜けていったことあったっけなあ」
サガ「その朝の風呂は実に良い湯だった。おかげで安眠することができた。久しぶりの双児宮だったが、カノンが殊の外、綺麗に使っているようで、シーツも整えられていてな。我が弟ながら、自覚が出て来たものかと嬉しかったぞ」
デス「一応聞いとくが、あんたは自分の部屋で寝たんだな?」
サガ「ああ。残念なことにカノンとは別部屋なのだ。私は一緒でも構わんかと思っていたのだが、カノンにそこだけは譲らんと固辞された」
ムウ「私だって28にもなって兄と同部屋なんて御免蒙りますよ」
デス「朝だよな」
サガ「そうだ」
デス「ベッドは綺麗」
サガ「言った通りだ」
ムウ「……」
デス「……」
ムウ「それならそれで何の問題もないじゃありませんか。というか、何の話をしていたんでしたっけ」
サガ「カノンとミロの関係だ。私もそれだけならば、特に疑うこともなかったのだろうが」
ムウ「更に何かがあったのですね?」
サガ「後日、夜半すぎのことだった。その日にカノンが収めた書類のことで、尋ねたいことがあり、一度双児宮に戻ったのだ。すると、室内に人影はなく、かわりに風呂場から物音が。しかも、何故か小宇宙が混じり合っているというか境界不明瞭というか、よくは分からんがカノン1人のものではないような」
デス「……」
サガ「仕方がないので、居間で待つことにした。1時間、2時間、3時間。実に長い入浴だった」
デス「つか、気づけよ!? 風呂は風呂だろうが、やってることは入浴じゃねえだろ。しかも3時間ってどんだけやってんだ!」
サガ「風呂で、入浴以外の何をするというのだ。湯船に3時間などさしておかしいことではあるまい」
デス「あんたにとってはな!」
ムウ「よくあなたは3時間も待ちましたね。火急の用ではなかったのですか」
サガ「私は、人の風呂は邪魔しないことにしているのだ」
デス「(弟、サガのその習性を見抜いているとみた)」
ムウ「(意外にやりますね、カノン)」
サガ「とはいえ、私もそう長く待っているわけにはいかん。その日は諦めて、教皇の間に戻ることにしたのだが、改めて考えるに、やはりその場にいたのは、ミロだったのではないかと、思えてならんのだ」
デス「俺はこれ以上、何が疑問なのかの方が分からねえけどな。ったく、あいつら、よりによって双児宮で、いっちゃいちゃいちゃいちゃ」
ムウ「いいですよ、もう。最後まで聞きましょう」
サガ「考えた結果」
ムウ「結果?」
サガ「2人はどうも風呂愛好仲間なのではないかと」
ムウ「……」
デス「……」
サガ「あの、風呂嫌いのカノンが! 何度私が言っても烏以下の水浴びしかしようとしなかったカノンが! 風呂の良さを分かち合い、共に入れる仲間に巡り合えたというのならば、こんなに嬉しいことはない。それだけでも、ミロには感謝をするべきなのだろうな。しかし、人間とは欲深いものだ。出来れば、その新境地を兄弟水入らずで分け合いたいと思ってしまうのだ。だが、以降、いかにカノンに話しやすいような場を設けてみても、一向に打ち明けてくれぬのだ。これまでの経緯から、私には素直に打ち明けられないのかと思うと、歯がゆくてならん。ミロの方に話してみるという手も考えたのだが、ミロはあれでいてなかなかに義理堅いところがある。カノンの決意がつく前に、おいそれと秘密を明かしはしないだろう。だが、夢にまで見た弟との連れ風呂……。カノンが心を許すのがミロならば、かくなるうえは、いっそ、2人の裸の付き合いの間に、私も分け入ってミロを交えて、3人で、」
2人「「それだけは、やめておけ」」

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Open 2012.5.28 / Renewal 2015.11.22
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