カノ「3つもあるからな。ちゃっちゃと行くぞ。まずは、Yからの質問だ。『Ωを観てどう思ってますか?』」
ミロ「おめが……?」
カノ「斜めの方向からきたな。とはいえ、否定したいところだが、Ωは今やメインコンテンツの一つとなってしまっている。そういった質問が来るのも無理からぬことだ。クロスオーバーが可能なのも、祭り企画ならではだしな」
ミロ「お前、誰に向かって何の話をしているのだ?」
カノ「独り言だ。気にするな。それにしても、ミロ。随分と難しい顔をしているな」
ミロ「俺たちが、俺たちのいない世界を生きていったあいつらのことを語るのが、どうにも腑に落ちん。これは本来、あることではない」
カノ「まあな。だが、そんなに堅苦しく考えることはないと思うぞ。それぞれが枝分かれした先の葉のひとつ、全ては有り得たかもしれない可能性だ。何かの折に、その葉と葉が触れ合い、互いを垣間見ることもあるやもしれん。無限の分岐と無限の運命、あの双子座の女もそう言っていたな」
ミロ「あちらも、双子の姉妹だったようだな。落ち着いているじゃないか。スニオン岬といい、もう少し騒ぐかと思っていたが」
カノ「奴らがどういう決着のつけ方をするのか、今はまだ分からない。だが、全くの善も、全くの悪も存在しない。今は、そう思っている」
ミロ「星ごと纏めて打ち砕く、か。存外良いことを言ったものだ。星の定めに縛られた双子が運命を乗り越える様、再び見せてもらおうか」
カノ「再び、か」
ミロ「再び、だ」
ミロ「他にも何か話題があったか? そういえば、俺がΩに出ているのではないかという問い合わせが方々から来て、煩くて敵わん」
カノ「そうか? 俺は気づかなかったが」
ミロ「レアとか言うパラサイトの奴だとか、エクレウスの小僧の真の姿だとか。言われてみれば似ていると言えなくもないかもしれん」
カノ「どこが似ているというんだ? 俺にはさっぱり分からん。外見など、所詮は上辺を覆った皮に過ぎん。俺には、お前は、お前しかいない」
ミロ「……。それは、俺にも少し分かるな」
カノ「ああ、俺にも似ている奴がいるんだったな? タイタンと言ったか。確かに顔かたちは似ているようだが、あれは、どちらかというと、性質はサガに近いような気がするな」
ミロ「俺が言いたかったのは、そいつのことではない。だが……、あちらの方も、今更言うまでもなかったな」
カノ「他に俺に似ている奴がいたか?」
ミロ「いや、いい。いずれ分かる。それとも、一生、分からないか」
カノ「おい、気になるだろう」
ミロ「お前は、本当に仕方がないな。少しは自分で察せ。それ以上、言いたいことがなければ、次に行くぞ」
カノ「そうだ、思い出した。一人だけ、お前に似ていると思った奴がいた」
ミロ「ほう?」
カノ「さっきお前も言ったろう。"あいつ"と」
ミロ「……」
カノ「氷河だ」
ミロ「氷河か……」
カノ「自分でもちらりと思ったんじゃないか? 造形が似ているとは思わん。が、時にはっとする顔つきをする。あの表情は、お前に良く似ている」
ミロ「だから、これはあることではない、と言ったのだ。あいつは、俺たちがいない世界を生きてきた氷河だ。俺たちのいる世界の氷河ではない」
カノ「こちらの氷河が、ああいう顔をすることはないのかもしれない。だが、あれも氷河だ」
ミロ「……」
カノ「一度出会ったら、二度と出会う前には戻れないんだ。俺たちが死した世界か。だが、生き続けてもいる。氷河の存在自体が、カミュやお前が生きた証だ。俺は嬉しかったぞ。氷河の中に、お前を見つけることが出来て。託し、繋ぐということの意味が、少し分かった気がしたからな」
ミロ「……あいつらが、冥王を倒し、女神と地上を救ったんだな」
カノ「そうだ。お前たちが女神を託した彼らがな」
ミロ「……」
カノ「……」
ミロ「フッ、柄でもない。カノン、先を続けろ」
カノ「ああ。……」
ミロ「さりげなくしまうな。次の質問はどうした」
カノ「いや、これはどうやら間違いのようだ」
ミロ「見ておいて間違いも何もあるか。いいから貸せ。『率直にお尋ねします。ずばり、誰相手の浮気なら許せますか。100分の1でも、10000分の1でも、1億分の1の望みでも構わないので、出来るだけ頑張って思い浮かべて下さい』」
カノ「HのVからの質問だな」
ミロ「HのV……」
カノ「少々変化球で来たな。ぱっと分からない人は良く考えてみるといい」
ミロ「考えるには及ばん。誰かは知らんが、俺に喧嘩を売る気なら相応の覚悟があるのだろうな」
カノ「ご丁寧に質問してくるくらいだ。とても生真面目な上司思いの人物なのだろう。それに免じて穏便にだな」
ミロ「肩を持つのか? お前、まさか」
カノ「勘違いするな。俺は浮気などする気はないから安心しろ。あとな、各所に誤解されているようだが、WのRはP一筋だぞ。ついでにPもまんざらではない様子だ。両片想いというやつだな。Vもとんだ見当違いのところに聞いてきたものよ」
ミロ「……おまえ、どうしてそんなにRだかPだかの事情に詳しいのだ」
カノ「ん? たまにこぼしに来るからな」
ミロ「たまに来る……?」
カノ「惚気なんだかただの呆けだか。あの朴念仁め。相手が上司では、職場でコイバナというわけにもいかないのは分からんでもないが。かといって、全く知らん奴では相談にならんのだろう。結局、ことある度に双児宮にやって来てはああだこうだとぐちぐちと」
ミロ「双児宮……」
カノ「迷惑な話だが、あのでかい図体の強面が、些細な出来事で頭を悩ませているのは、なかなかに可笑しくもある。よくもまあ、飽きずに毎週ネタが出て来るものだ」
ミロ「毎週」
カノ「ああ見えて冥界の女王は無類の甘党らしくてな。こっそり菓子作りを指南してやったら、男泣きに喜ばれたのが最高潮だった。交換条件で、英国式の茶の淹れ方を習ったのだが、武骨なあの男には似合わず、繊細な味と香り、なかなかの手並みだった。今度お前にも淹れてやろう、って、ミロ!! 急にどうした!? 爪の色を戻せ!」
ミロ「問答無用だ! 一度、貴様にはじっくりと躰で分からせてやる!」
カノ「一度どころか、既に14回の実績で、俺には嫌という程分かっている!」
ミロ「俺の目を盗んで、こともあろうか双児宮で繋がり眉毛と定期的に逢引きを重ねているとは」
カノ「誤解だ! 単に、週1で菓子食いながらだべっていただけだ!」
ミロ「それが浮気だと言っているんだろうがあ!!!」
カノ「待て、ミローーーー!!!」
カノ「ぐぅ……」
ミロ「あいつだけは絶対に許さん!! ついでに、この際だから言っておく! あの不死鳥座と、24時間耐久サウナ@カノン島に出かけることは金輪際許さん!」
カノ「知っていたのか……。しかし、何故駄目なんだ。カノン島サウナのリフレッシュ効果は抜群なのだぞ」
ミロ「何故でもだ。強いて言えば、兄だからだ。あの男は齢15の範疇とは認めん。兄といえば、サガと同衾することもだ」
カノ「はあ!? サガもか? いや、爪を伸ばすな。同衾したいと思っているわけではない。むしろ28にもなってそれはごめんだ」
ミロ「一万歩譲って、サガに関しては、一緒に風呂に入るのだけは許可してやる」
カノ「お前の基準が分からないぞ」
ミロ「教皇の間に行くときには宝瓶宮を飛ばしていけ。あと、カニとアパート一つ屋根の下なぞ言語道断だ」
カノ「どうしてその名が出て来るんだ!? 身に覚えがなさすぎる」
ミロ「芽は先に摘んでおくまでだ。これも強いていえば、お前が双子の弟だからだ。兄経由と言えば勘の悪い奴も少しは分かるか」
カノ「???」
ミロ「ともかく! そういうことだ。HのVとやら。これ以上は答えるまでもないな?」
カノ「よ、よくは分からんが、収拾したとみていいのか……?」
カノ「ようやく最後か」
ミロ「……」
カノ「どうした?」
ミロ「これは俺が処理しておく」
カノ「さっきの威勢はどこへ行った。自分の台詞を忘れたのか?」
ミロ「お前が俺に言うのは許されんことでも、俺がお前に言うのは許されるのだ」
カノ「お前は変則型ジャイアンか。答えにくければ俺が答えてやる」
ミロ「あっ、こら!」
カノ「随分長いな。これは、質問というより、手紙に近いんじゃないか?『最近、とても気を揉んでいることがある。他でもない。アイザックと氷河のことだ。幸いなことに、我々同様、海界の者も再び命を授けられたおかげで、アイザックも蘇ることが出来た。この上なく喜ばしいことだ。そうでなければ、氷河に、真に心の平安は訪れなかっただろう。初めは気まずげな2人だったが、最近、そんな2人にも変化がみられるようになったのだ。シベリアでの修業時代より、仲は良かったが、どうも少し様子が違うようにも思える。そこで、この前、こっそりと出かけるという2人の後をつけてみたのだ。ふむ。あの時ほど、光速が役に立った時はない。すまない。話がずれてしまった。結論から言おう。どうやら2人は、お互いを好きあっているようなのだ。しかし、最初の動物園しろくま見物デート以来、手を繋いだところから進展できないでいる。そこで、お前たちに頼みがある。既にラブラブな2人から、彼らに、先輩として何か声をかけてやってくれないだろうか? 長くなってしまったが、以上だ。AのCより』」
ミロ「……」
カノ「……」
ミロ「おい、何とか言え!」
カノ「ラブラブ……」
ミロ「やっぱりそこかっ。だから嫌だったんだ。他にも突っ込みどころが山ほどあるだろうに、何故にそこに食いつくのだ!」
カノ「いや。Cの語彙にらぶらぶという単語があったことにまず驚いたのだが。そこまで公認だったとは」
ミロ「公認でたまるか。あいつは、思い込みが激しいのだ。知っているだろう」
カノ「LoveLove」
ミロ「文字を変えるな繰り返すな浸るんじゃない!」
カノ「後でゆっくり反芻しよう。それはそうと、アイザックと氷河はそういうことになっていたのか」
ミロ「そうらしいな。なんだ、珍しい顔をして」
カノ「珍しい?」
ミロ「にやけ面が気色悪い」
カノ「そうか。自分ではよく分からないんだ。あのアイザックがな」
ミロ「俺には意外だな。氷河の傷は、お前が思っている以上に深い。師であるカミュも、兄弟子であるアイザックも立て続けにその手で殺めた。皆が蘇ったからといって、そう簡単に癒えるものではない」
カノ「やはりお前は、氷河に入れ込んでいるんだな」
ミロ「何?」
カノ「それは、氷河側のものの見方だ」
ミロ「!」
カノ「アイザックは海将軍だ。何を思い、氷河の前に立ったのか。あいつにはあいつの理由と動機がある。一人で決めて、まあ、俺も聞く気は、なかったんだが」
ミロ「……」
カノ「悪かったな。遮って。嬉しかったんだ。言ってしまえば。気を悪くするなよ」
ミロ「……さっきの質問だが」
カノ「ん?」
ミロ「浮気の」
カノ「あ、ああ」
ミロ「許してやっても良い」
カノ「…………………………氷河か?」
ミロ「馬鹿か!! よりによって、二択で間違える奴があるか! お前、氷河も狙って……!」
カノ「いや、違う。断じて違う。ちょっと考え過ぎた。アイザックだな! しかし、何故、と聞いてもいいか」
ミロ「……」
カノ「言っておくが、あいつに手を出してはいないぞ」
ミロ「当たり前だ。いくら大馬鹿者のお前でも、己の野望に加担させるために弱さを暴き利用するような外道なら、今からでも遅くない。蠍の爪の餌食にしてやる」
カノ「手厳しいな……。取りあえず、過去の俺を、その点に関しては褒めてやるべきだろうな」
ミロ「海底であったこと、お前たちの間に在るものは……。氷河では分からんこともあるだろう。だが、氷河には、分からんままで良いこともある。アイザックは、それも抱え込むつもりなのだろう。だが、所詮はまだ子供だ。だから、その辺は、お前が責任をもって背負えと言っている」
カノ「これはまた、随分と信頼されたものだな。おかしいな。許さんと言われるよりも許すと言われる方が、怖いと感じるとは」
ミロ「それに、俺にも分かってやれんこともある。お前のことで」
カノ「ミロ……」
ミロ「だからといって、間違えるなよ! 2人で話をするくらいのことは目をつぶってやると言っているだけだ。その、抱擁だとか、口付けだとか、ふ、ふろとか、まして、」
カノ「大丈夫だ。お前とするようなことは全部やらなければいいんだろう」
ミロ「こ、こら! それではまるで俺たちが」
カノ「事実じゃないか。何を焦っているんだ」
ミロ「くそ! お前、わざとか!?」
カノ「何がだ?」
ミロ「ああ、もういい! あと一つ」」
カノ「?」
ミロ「手を繋ぐのもダメだ」
カノ「……」
ミロ「返事は」
カノ「分かった」
カノ「しかし、俺たちが思い悩むこともないのかもしれんぞ。彼らは若い。小さなわだかまりなど、すぐに乗り越えられるさ。きっかけさえあれば」
ミロ「きっかけか。AのCたっての願いだ。頼まれてやらんわけにはいくまい。それとなくどこかに連れ出してやればいいんだな」
カノ「しかしな。動物園とはまた、べたというか、微笑ましいというか。大方、氷河の好きそうなところを選んだのだろうな、アイザックの奴」
ミロ「だったら今度は、アイザックが行きたいところに誘ってやればいいのではないか?」
カノ「かつ、それらしい雰囲気になりそうな」
ミロ「水族館?」
カノ「水族館か……」
ミロ「(これは何かのフラグか?)」
カノ「俺がアイザックと話している間に、氷河の方は頼んだぞ」
ミロ「そう言えば、おまえの方の返事を聞いていなかった。お前は、俺が、氷河やカミュと一緒にいるのは、許せるのか?」
カノ「浮気の続きか? 許すも許さんもないだろう。彼らは俺よりも前に、お前と出会い、お前を知った。それを俺に止めることは出来ない。それに、お前は浮気なんて出来ないだろう?」
ミロ「たいした自信だな」
カノ「まさか。そうじゃない。お前はいつも本気しかないだろう、ということだ。だから、もしも、そういうことがあったら、俺は大人しく引き下がるしかないわけだ」
ミロ「諦める、と」
カノ「それも違う。俺のしつこさを甘くみるなよ。お前が本気で愛する相手がいるなら、俺はそれも含めてお前を愛そう。そういうことだ」
ミロ「そうか。……だったら、もう少し、自分のことも愛せそうなものなのにな」
カノ「ん、どういうことだ?」
ミロ「何でもない。行くぞ。善は急げだ。早くどうにかしてやらんと、俺がカミュに恨まれる」
カノ「まあいい。後でゆっくり聞かせてくれ。フッ。そうだな。あいつらにはラブラブなお手本を見せてやらないとな。ミロ」
ミロ「なんだ」
カノ「手」
ミロ「……」
カノ「……」
ミロ「……」
カノ「フフフ。これ以上は限定公開だ。質問の答えは以上だ」