おつとめカノミロ


童虎「とりっくおあとりーと!! 菓子か、でないと悪戯しちゃるぞい。ほれほれ、どっちじゃどっちじゃちゃっちゃっちゃっ」
シオ「うろたえるな小僧どもーーーー!!!」
童虎「うぎゃああああ」

――――しばらくお待ち下さい――――

童虎「いきなり何をするっちゃ。せっかく作ったかぼちゃらんぷが粉々になるところじゃないかよう。前聖戦を共に戦った真友のわしに、冒頭から最凶必殺技とは血も涙もないぜよ」
シオ「まだ言うか。オールスルー推奨と言いたいところだが昔のよしみ、丁寧につっこんでやる。今をいつだと思っている。素直にごめんなさいなら可愛げあるものを、人を小馬鹿にしたギャグで誤魔化そうとは失礼千万。イベント物にしてもよりによってどうしてそこ行く。なんだその方言崩れの喋り方は。地方の方に謝れ。痴呆か!? ぼけるのは歳のせいだけにしておけ。総じて誰だお前は!!」
童虎「むぅ、容赦ないが律儀なツッコミ……愛じゃな。って待てい、スターダストレボリューションの構えはやめい。じゃが、わしの故郷の言葉を馬鹿にするのは、いくらおぬしでも許さんぞ」
シオ「どこにそんな似非方言を操る中国人がいる」
童虎「中国は中国でも中国地方じゃ」
シオ「偽物かーーーっ!!!」
童虎「冗談の通じんやつだのう。つまらんやっちゃ」
シオ「お前とは一度きっちり決着をつけねばならんようだ」
童虎「どうあっても闘いは避けられんか…。しかし、わしとおぬしがやり合えば、千日戦争は必至」
シオ「千日戦争など悠長なことをするつもりはない。一気にかたをつけてやる!」
童虎「愚かな! 自ら消滅を望むかシオン!」
シオ「くらえ、童虎!」
童虎「……の前に。確認じゃが、おんしゃ、若い頃は、短髪のつんつんだったよのう?」
シオ「何を言うか、わたしは昔からボリュームロングヘアーだ」
童虎「……」
シオ「……」
童虎「なるほどのう。そういうことか」
シオ「童虎、混ぜるな危険という言葉を知っているか」
童虎「中国の古い教えじゃ」
シオ「それは違うが意味は通じているようだな。この話題はこれより近畿、いや禁忌とする。良いな」
童虎「異論はない」

シオ「――で、随分長い前ふりだったが、気を取り直して本来の趣旨に戻るぞ。今回の調査依頼だ。『カノンとミロの聖域における勤務態度について』奴ら、何をやらかした?」
童虎「調査依頼などという物騒な物言いをするでない。どちらかというと、天井裏壁裏ベッド下、どきどき秘密の生活覗きみ隊きゃっ☆という属性の質問じゃろう」
シオ「昭和の女子高生か。センスが古いぞ」
童虎「むっ、なんと……! 時代はわしを置いてきぼりにするのか……」
シオ「気になる報告がいくつか上がってきている。わたしが不在の教皇の間で、しかも執務中に職権濫用を働く愚弟の姿を目撃したという者がいる」
童虎「無視するな、シオンよ。寂しいではないか。じゃが、それはっ……」
シオ「同時刻に黄金の尾と白いマントが執務室の扉に消えるのを見たという、別口からの報告もある」
童虎「むぅ〜〜」
シオ「教皇代理補佐に与えられた職務部屋。当然、誰も来るはずがない。薄暗い執務室で2人」
童虎「まさか……」
シオ「昼下がりのひととき、することと言えば一つ」
童虎「こっそり2人で昼弁じゃな!」
シオ「はあ!?」
童虎「決まっておろう。揃ってお昼休みに消える2人のすること言えば、秘密の屋上で手作り弁当じゃ! この場合は、彼弁というのが味噌じゃな」
シオ「中学生カップルか! だいたい奴らがそんな可愛らしいタマか」
童虎「わしの観察眼を甘く見てもらっては困るのう。天秤宮にいることは少ないがの、お隣さんのことじゃ。天蠍宮の様子は多少なりとも知れるというもの。留守にしておる間に随分行き来が頻繁になっておって微笑ましく思ったものよ。一方的かと思いきや、ミロの方もまんざらでもない様子。後にはミロが下に降りていく姿もよう見るようになったかの。早朝全速力で駆け上がって行く時には、大抵美味そうな匂いを漂わせておったわ」
シオ「寝坊するほど遅くまでナニをしていたかと問いたいとこだがな」
童虎「まあ、多少の秘め事くらいはあるかもしれんがのう。『時間だ。行く』『もうか? まだ少しあるだろう』『午後は近隣の村へ女神のお供をするのだ。遅れるわけには行かん』『羨ましいな』『お前も内勤ばかりではなく、少しは外へ出ればいい。篭っているなど性にあわんだろう。女神もお前たちが言い出すのを願っておられるものと思うが』『なかなか、な……。それに羨ましいと言ったのは、お前と一緒に出かけられる女神にだ』『……不謹慎だぞ』『知ってる。ミロ、行くならその前に。挨拶』『勤務中だ』『まだ昼休みだ』『お前が勝手に決めた休み時間だろう』『いいから……』『……』『……』『ん……』『……夜にまた』『ああ。待ってる……』」
シオ「童虎、覗きは展開次第では犯罪になるぞ」
童虎「失敬な。豊かな想像力の賜物じゃ」
シオ「それはそれでどうかと思うが。だいたい、どうしてお前が奴らの挨拶を知っているのだ」
童虎「天蠍宮の正面は天秤宮の裏山からよっく見えての。朝でも夜でも、あたりが暗いからといって油断は禁物じゃ」
シオ「遮るものがなくとも優に数キロ以上はある距離だぞ……恐るべし千里眼地獄耳」
童虎「若いとは素晴らしいのう。甘酸っぱい青春真っ只中じゃ」
シオ「真っ最中を目撃されないだけましか。にしても朝っぱらから深夜どころか真っ昼間まで、ちゅっちゅちゅっちゅ鬱陶しい! 模範となるべき黄金聖闘士が、そんな緩みっぷりでは示しがつかん」
童虎「それくらい大目に見てやるものじゃ。勤務態度に支障がでているわけでもなし。かえって良い傾向かもしれんぞ。少しばかり肩の力の抜き方を覚えた方が、体はうまく動くようになるのと同じじゃ。硬いばかりでは壊れやすい。折れたことのないものは脆い。時には柔らかさも必要じゃ。そういうことが、許される時になったのじゃからのう」
シオ「……」
童虎「ミロが公私混同するような男ではないことは言うまでもなかろう。おぬしもよう知っておる通り」
シオ「 ミロか……。そうだな。黄金聖闘士たることを何よりも強い誇りとし、それが行動原理にある男だ。だが盲信に陥らず、女神への深い忠義故に、納得せねば頑として聞かん。任務に忠実だが、己の直感を一義に信じ、否と思えば翻す。いずれも矛盾せず存在するのは、己への自信に裏付けられているからに他ならない。時に過剰ではあるがな」
童虎「なるほど。前教皇としての見立て、というわけじゃな」
シオ「よって駒とするには扱いにくい。冷静ではあるが、一度激昂すれば手が付けられんのも扱いを更に難しくする」
童虎「ほぅ」
シオ「歳の幼さだけではない。他の者のことは省くが、当時のサガの判断は正しく、また、それ以外には難しかったということだな」
童虎「おぬしの口からそれが出るとはのう」
シオ「おかしいか」
童虎「いや、聞こう。ならば、おぬしは、カノンのことはどう見ておる?」
シオ「双子座の弟か」
童虎「そうじゃ。前聖戦の双子座の相克を知るおぬしが、何も思うところがなかったわけではあるまい。双子の星は、どちらのもとにあったか。星を読むおぬしはなんと見たか。聞いてみたいと思っておった」
シオ「同じ双子座だからといって、同じ運命を抱くものではない。どちらかが光、どちらかが影にならねばならんというのはまやかしだ。先代は先代。縛られる必要などない」
童虎「おぬしの目には、違った星の動きが見えたか」
シオ「答えなどない。これが答えになるかもわからん。だが、世の中には二種類の人間がいる。自らが上に立つことで輝く者と、自らの主を持って水を得る魚と」
童虎「……」
シオ「サガとカノンの話だったな。奴らは質は違うが同格だ。そういう意味ではより双子らしいといえる。兄ばかりではない。補佐の立場に収まっていても、本来あれも覇者の血だ。故に、より厄介だ」
童虎「……」
シオ「だが、憂うべきことばかりではないな。野に放たれたとしても、首に鈴をつけておきさえすればいい。鳴れば首を落とすくらいが望ましい。双子座の片割れが蠍に執心だというのなら、こうまで相応しい鈴もあるまい。翻意ありと見れば、確実に殺る。情が深かろうとも公私混同はせんだろう。お前が先ほど言った通り。相手は手も上げずに命をくれてやるだろうさ……愚かしくも」
童虎「……」
シオ「……」
童虎「はっはっは。似合わん似合わん。やめておけ」
シオ「……なんだと?」
童虎「憎まれ役の演技はさすが堂に入ったものじゃが、そんな必要はない。おぬしが心配せんでも、あやつらは、ちゃんと自分たちで道を切り開いていきよるよ」
シオ「……」
童虎「人は変わるものじゃ。ミロもカノンも……サガも」
シオ「……」
童虎「双子の星は、どちらのもとにあったか。その答えはいずれ自分たちで出すじゃろう。ともすると、もう出ているのかもしれん」
シオ「……。お前は甘いな。年を取ってますます甘くなったわ」
童虎「そういうおぬしこそ、口ではそんなことを言いながら、可愛くて仕方がないとみえる」
シオ「馬鹿を言え。ひよっこどもがちゃんとやっているか、尻をひっぱたきに来ただけよ」
童虎「照れるでない。わしもじゃ。わしらにとっちゃあ、28も20も大して変わらん。いくつになっても、皆まとめて孫みたいなもんじゃ。そうは思わんか」
シオ「……フッ。お前は昔から変わらんな、童虎」
童虎「おぬしもじゃ、シオンよ。こうしてわざわざ様子を見に、遠くから帰ってくるくらいじゃからな……」

紫龍「老師、もう日が変わります。寒くなりますから中へ……。いかがしましたか? 楽しそうなお顔をなさって」
老師「もうそんな時分じゃったか。友との語らいは時を忘れる。何年経っても、若かりし頃に戻る、じゃ」
紫龍「は……? 友、でございますか?」
老師「ほっほっほ。ああ、もう行ったのか。なあに1年などすぐじゃ。これまで待った年月に比べればの」
紫龍「老師?」
老師「今行くぞ。紫龍よ。もちっと待っておれ」

老師「ジャックオランタン。こんなものに頼らずとも、おぬしは迷わず逝くのじゃろう。来年また会おうぞ……。のう、友よ……」

※当家のメイン設定では、童虎は老師として五老峰に。シオンは復活していません。

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Open 2012.5.28 / Renewal 2015.11.22
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